CASE STUDY

ProJet® 3500HD / 医療

「再生医療」を支える3Dプリンター。最先端医療での活躍。

通常のプリンターのように、紙に印字するのではなく、3Dデータを元に立体を作り出す3Dプリンター。イグアスでは、スリーディー・システムズ社製の3Dプリンター「ProJet™シリーズ」を販売し、展示会などで大きな注目を集めている。最近では、製造業の試作品開発などに利用され、設計段階での形状確認にかかる時間を最小限に抑えるなど効果をあげている。このProJetを、「再生医療」という最先端医療分野に利用しているのが大阪府吹田市にある国立循環器病研究センターだ。ProJetが再生医療にどのように活用されているのか、その取り組みを追った。

医療

国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター

日本で最高レベルの循環器病医療を提供


DSC_0049.JPG大阪のベッドタウンである吹田市にある国立循環器病研究センター。この病院は、心臓病、高血圧といった心臓や血管の不調によって生じる循環器病の高度医療を行っている。全国でも数少ない、心臓移植を行うことができる病院として広く知られている。

一般には病院として認識されているが、「国立循環器病研究センター」という名称からわかるように、病院だけ でなく、研究・研修を行う機能を持っている施設である。病院という臨床の場と、研究施設が隣接していることで、研究と治療の連携がすぐに行える環境を持っ ていることが大きな特徴となっている。

元々は厚生労働省管轄の「国立高度専門医療センター(略称=ナショナルセンター)」のひとつであったが、行政改革により、2010年4月から独立行政法人となった。

病院と併設されている研究所では、循環器病に関する様々な研究が行われている。人工心臓弁に関する研究もその一つ。3Dプリンター「ProJet」を利用し、人工心臓弁を再生医療で実現する研究が進められている。

 


DSC_0146.jpg心臓弁とは、心臓の中で血液の逆流を阻止するためについている。心臓弁に異常を持っている心臓弁膜症の患者数は全国に約30万人存在すると言われ、そのうち重症な人向けの手術は年間で1万件以上行われている。

重症の患者には人工心臓弁が取り付けられるが、金属製の機械弁と、豚や牛などの心膜や心臓弁を活用した生体 弁の2種類がある。金属のものは、耐久性は高いものの、体内に金属を埋め込むことになるため、その表面で血が固まってしまうといった副作用が出てしまう。 その副作用を防ぐために、患者は血液が固まるのを防ぐ薬を一生飲み続ける必要がある。

豚や牛の心臓弁を利用した場合、金属製のものと違い、拒絶反応は少ないものの、耐久性が低いことから15年程度を目処に、取り替える必要がある。

このように、現状の人工心臓弁にはそれぞれデメリットがあり、問題の少ない新たな人工心臓弁の誕生が待たれている。

工学アプローチから再生医療に取り組む

医工学材料研究室の中山泰秀室長は、「私が所属する医工学材料研究室では、工学技術を医療に生かすための研究を行っています」と話す。中山室長自身も工学博士で、医師ではない。工学技術を医療に生かすとはどんなものなのか。

「それをご理解頂くためには、私が取り組んでいる研究内容をお話するのがいいと思います」

中山室長が進めている研究は、再生医学による人工心臓弁の開発である。すでに犬の身体を使って人工心臓弁を開発することに成功している。

「再生医学と聞くと、クローンを作り出すといったことを思い浮かべるかもしれません。しかし、実際には人間 の身体に備わった機能、例えば怪我を治す人間本来に備わっている力を生かすことで、自分自身の組織や臓器を自分で再生するのも再生医学の一つです。自分の 身体で作り上げた組織や臓器ですから、拒絶反応など身体への負荷がほとんどなく、なじみやすいという優れた特性があります」

一口に再生医学による人工臓器といっても、様々なアプローチが行われている。新聞で取り上げられることが多いiPS細胞やES細胞による人工臓器開発は、簡単にいえば細胞を組織や臓器に成長させるという方法だ。将来性の高い技術ではあるが、実用化への道のりはまだ遠い。

一方、中山室長が取り組んでいるのは、もっと現実的なアプローチである。

DSC_0138.jpg「人間の身体は、異物が入ってくるとそれを排除しようとします。例えば、トゲが指に刺さると異物を押し出し て排除しようとする。ところが、体内の奥深くに異物が入ってくると、押し出して排除することはできません。そこで、異物の周りをコラーゲンカプセルで覆っ て隔離することで、擬似的に体内の内と外と同じような状態を作ってしまうのです。これは拒絶反応ではなく、身体との共存反応なのです。私が行っている研究 は、これを利用し、人工心臓弁を作り上げたのです」

体内の奥深くに入った異物をコラーゲンで覆う状態は、真珠養殖に似ているという。真珠の養殖はアコヤ貝に核 を埋め込むことで、核の周りを貝殻と同じ物質で覆ってしまう。人間の身体の中でも同じような現象が起こる。例えば、心臓病の患者が利用しているペースメー カーを埋め込んでおくと、周囲がコラーゲンで覆われるようになる。

「体内に埋め込んだ心臓ペースメーカーがコラーゲンに覆われることは、外科医であれば誰もが知っていること です。しかし、これを再生医療に利用する医師はいませんでした。我々研究グループは、工学の視点からこれを再生医療に利用することを思いついたのです。ひ な形さえあれば、自分の細胞から自分の身体の中で自分への移植用の組織を作ることができます。まさに理想的な再生医療となります」

1か月で5年分と同数の試作品を製作

中山室長が現在行っている研究では、犬の身体に人工心臓弁のひな形となるシリコン製物体を埋め込む。シリコンの周りがコラーゲンで覆われた段階でそれを取り出す。

「自分の身体の一部ではあるものの、体内で異物として認識されているため、キレイに取り出すことができます」

新たに出来上がった心臓弁の形状のコラーゲンの中からシリコンを取り出すと、心臓弁と同じ形状のコラーゲン状の物質ができあがる。

「本物の心臓弁にはコラーゲンだけでなく、エラスチンという弾性タンパク質が含まれています。新しく作り出した心臓弁にはエラスチンは含まれていないのですが、体内に心臓弁を埋め込んでしばらく置くと、エラスチンも入ってくるのです」

自分の体内で作り出した心臓弁は、人工ではあるものの、当然のことながら拒絶反応は出ず、移植すれば経過とともに自分の本来の組織に近づき、やがて自分のものになっていく。

「現在のところ、犬の身体を使った実験ではありますが、非常に順調な成果をあげています」

ところが、この研究を進める際、大きな障害となっていたのがひな形となるシリコンの造形だった。

「これまではアクリル製の型を作って、加工機で形状を調整し、シリコンを流し込んでひな形を作ってきまし た。形が複雑なため、型を作るまでに1か月かかり、しかも出来上がった型を調整するためにさらに時間がかかる。この研究を始めて5年ですが、これまでひな 形をモデルチェンジしたのは5回。つまり、1年に1台しかひな形を製造することができなかったのです」

展示物.jpgそこで問題を解決するために導入を検討したのが3Dプリンターだった。

「研究所の中にも古いタイプの3Dプリンターがあり、それを以前に利用したことがあるのですが、精度が低く、利用するのは無理だと判断していました。しかし、最近では0.1㎜単位で造形を調整できる3Dプリンターがあると聞いて、導入することを決断したのです」

3社の製品を比較したが、動物実験を行った結果、1社のものは体内に入れると造形物が溶けてしまうことがわかり不採用となった。「ProJet」ともう1社の製品を比較、検討したところ精度の高さからProJetの導入が決定した。

2010年3月末に導入が終わり、4月から利用がスタートしたが、「利用しているひな形は、5年間で5回モ デルチェンジをしたとお話ししましたが、4月から1か月だけですでに5台を試作しています。1か月で5年分のモデルチェンジをしてしまったのです」と予想 を超えるハイペースでProJetが活用されている。

「しかも、3Dプリンターとしての機能を生かし、患者の心臓弁の形状を3D撮影し、それを元にオーダーメイ ドの人工心臓弁を作るといった方法も可能となります。健康な人は標準的な人工心臓弁を利用しても問題はないのですが、心臓弁に異常がある人の中には形状自 体が異常であるケースも少なくありません。特に子どもさんは、このケースが多いので、オーダーメイドの人工心臓弁を作ることができれば、需要は大きいと思 います」

現在のところ、中山室長が手がける人工心臓弁の開発は動物実験の段階。人間が利用するためにはセンター内での倫理委員会の承認を経て、臨床試験を行う必要がある。

「人間の利用には、まだ数年かかりそうですが、iPS細胞やES細胞に比べれば、実用までの道のりがはっきり見えてきました。また、人間の前に、病気の犬に我々が開発した人工心臓弁を取り付ける試みが始まる予定です」

心臓弁に病気のある犬の手術は、日本では唯一、神奈川県にある日本大学動物病院(上地正実教授)で通常治療として行われている。この日本大学動物病院で、中山室長達が開発した人工心臓弁を利用した治療が2010年中にスタートする見込みだ。

「これまでの研究では、健康な犬に人工心臓弁を取り付けていました。病気の犬に人工心臓弁をつけた場合、より臨床に即した評価ができるため、人間への臨床応用の前段階として大きく前進することになると思います」

図:再生医療による心臓弁作成の流れ

人工血管やステントグラフトへの応用検討も

3Dプリンターを使った人工心臓弁の開発に実用の見込みが立ったことで、他の再生医学にも新しい可能性が生まれている。例えば、人工血管の開発にも利用できる見込みが出てきたのだ。

「現在のところ、心臓に栄養を与える冠動脈のような2㎜、3㎜といった細い人工血管はまだないのです。そこ で腕や足など自分の身体の中にある血管を利用することになるのですが、数には限りがあります。そこでProJetを利用することで、2㎜、3㎜の人工血管 を再生医療で作ることができないのか、研究がスタートしました」

さらに、ステントグラフトという人工血管の回りにバネ状の金属を取り付けた新型人工血管がある。バネの力に よって、開腹手術を行うことなく人工血管を取り付けることができるため、患者の肉体的負担が少なくて済む。その一方で、血管、特にトラブルを抱えた血管は 様々な形のものがあり、最適な形状のステントグラフトを作るのが難しいという欠点があった。

「ProJetを使えば、患者の血管の形状に合わせたステントグラフトを作ることが可能となる可能性があります。しかも、ステントグラフトを血管以外の人工心臓弁に応用することで、外科手術なしで取り付けが可能となります」

外科手術を必要としなくなれば、患者にとっては負担の大きな軽減となる。

ProJetの持つ3Dプリンターとしての機能が、医学界に新しい可能性を生み出そうとしている。

製造過程.gif

DSC_0158.JPG

【企業DATA】

国立循環器病研究センター研究所
本社:大阪府吹田市藤白台5丁目7番1号
URL:http://www.ncvc.go.jp/res/index.html

JBS_symbol.jpg

【販売代理店】

JBサービス株式会社
本社:東京都新宿区新宿4-2-23 新四curumu 11F 
URL:http://www.jbsvc.co.jp/index.html 

JBグループ情報誌Link Vol/203掲載

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