3Dプリンター出力品塗装の現場に潜入
ProJetシリーズで作った造形品に、よりこだわりを加えたい!色を塗ってリアルにしたい! そんな声に応えるべく、塗装の専門家にインタビュー致しました。 造形しただけではもったいない!塗装で3Dプリンター造形物活用の幅をぜひ広げてください。
模型やフィギュア等の塗装を企業ユースから個人ユースまで幅広く請け負っている、株式会社アイビプロテック ナガエアートプロダクション様に取材を行いました。
実際にProJetシリーズで造形した造形物(材料はVisiJet M3 Crystal)の塗装現場を見せていただきながら、塗装の専門家はどのように塗っているのか、自分で塗る場合は何を使えばよいのか、など3Dプリンターの造形物の塗装について詳しくレポート致します。
■増えてきた、3Dプリンター造形物の塗装依頼
イグアス:ナガエアートプロダクション様には、渋谷CUBEの企画で作った「3D部長のフィギュア」や、銅像風味の3Dプリンター胸像の塗装を依頼して以来お世話になっています。
イグアスの依頼が3Dプリンターの造形物の塗装は初めてだったそうですね。
ナガエアートプロダクション:そうですね、実際は出力した製品を塗装した事もあったのかもしれませんが、はっきりした3Dプリンター出力品の塗装依頼はイグアスさんからが初めてでしたね。
イグアス:最近では、3Dプリンターの造形物を原型として持ち込まれる依頼も増えてきたとか
ナガエアートプロダクション:そうなんです、企業様はもちろん個人様からの制作依頼等も3割くらいは3Dプリンター出力品になってきています。スケール物からフィギュア、機械部品などジャンルを問わず増えていますね。
イグアス:今回、3Dプリンター造形物の塗装について教えていただきたいのですが、3Dプリンター造形物塗装する際に、普通の模型やフィギュアと異なる手順や注意点などはありますか?
ナガエアートプロダクション:やはり、出力品がどの状態にあるのかの確認が最初ですね。
サポート材の処理が万全か、出力材料は何かでだいぶその後の対応が変わります。サポート材の除去が完全でない場合は、カッターの背で削る事から始めます。刃の部分で削ると傷がついてしまいますので、背の部分を使用し、やさしくそぎ落とします。
出力材料についてですが、材料が樹脂の場合は一般的にガレージキットと呼ばれる物と同一の方法での塗装が応用出来ます。
しかし、出力品がナイロン系や石膏ですとその後の対応が変わってきます。ナイロンは柔軟性があるので、染料などがはがれやすく下地処理できません。ビニール系の塗料で一度塗ってからの塗装を行います。石膏はそのままだと塗料を吸ってしまい、にじみなどが発生してしまう為、事前にコーティングを行う必要が出てきます。
■手順1 油抜き処理
イグアス:今回は、ProJet3500の材料VisiJet M3 Crystalで造形した猫のフィギュアを見本塗装していただきます。よろしくお願いいたしま
この機種で造形する場合、サポート材料がWAX(ろう)だったり、サポート除去の過程でサラダ油を使用したりする為に油分がわずかに残ってしまっていると思います。アイビプロテック様ではどうやって油抜きを行っていますか?す。
ナガエアートプロダクション:専用の洗浄液を使う場合は、一般的に「レジンウォッシュ」と呼ばれる洗浄液を使用します。これは模型店で購入する事が出来ます。
適当な大きさの容器を用意しレジンウォッシュをためて、漬け込む事により樹脂中に浸み込んだ油を抜いていきます。
レジンウォッシュを使用する事により、表面が白くなってしまう事があります。透明仕上げを行いたい場合など、白くしたくない場合は浸ける時間を短くしたり、レジンウォッシュを使わない事もあります。
その後、台所用の中性洗剤とクレンザーを1:1に混ぜたものを歯ブラシなどでゴシゴシと擦って、油を落とします。レジンウォッシュを使った方が確実ですが、レジンウォッシュが無い場合は中性洗剤とクレンザーを用いた方法だけでも洗浄は行う事が出来ます。
ガレージキットの塗装の際も、レジン複製の際に付着した離剥材(シリコン系の油のようなもの)が吹き付けられている事が多く、レジンウォッシュや洗剤での洗浄などのこの工程は必ず必要になります。
イグアス:中性洗剤とクレンザーを用いた洗浄方法は、塗装しない場合でも活用出来ますね。
■手順2 下地処理
ナガエアートプロダクション:次に、磨いて表面を整えます。現状をよく確認し、粗めのペーパー(240~320番)からスタートして細目(400~600番)で表面を仕上げます。
スケールモデル等の表面がツルツルの状態に仕上げる場合には、もう一段階極細目ペーパー(800~1000番など)で仕上げる場合もあります。
表面が整ったらプライマー入りのサーフェイサーを吹きかけます。
イグアス:サーフェイサーは市販のプラモデル用の物ですか?
ナガエアートプロダクション:市販のプラモデル用サーフェイサーでは材料への被膜が薄く、食いつきがあまり強くない為、樹脂用のサーフェイサーを使用します。ここでも材料によって、メタル用のプライマーや金属用シールプライマー等を使い分けます。
プライマーは薄く均一に吹きかけるようにします。はじめは薄く均一に吹きかけるのが難しく、だまになってしまう事もあるかもしれません。離し気味に丁寧に少しずつ吹きかけてください。吹きかけすぎると細かい溝などの凹凸が埋まってしまう事がありますので、気を付けてくださいね。
今回は、グレーのサーフェイサーを吹きかけた後に白のサーフェイサーを吹きかけています。
■手順3 塗装
ナガエアートプロダクション:サーフェイサーが乾いたら、塗装の開始です。
下地にプライマーを吹いているので、塗装は一般的に模型店で販売されている塗料で問題ありません。
乾燥時間や仕上がりなどを考慮するとラッカー系がお勧めですが、シンナー成分が多いため、家庭やオフィスでたくさん使用する際にはにおいに気を付け、必ず窓を開けるなどの換気にも気を付けた方がよいですね。
1色目が塗り終わったら、塗料が混ざらないように乾燥してから2色目を塗ります。塗料は、表面が乾いていても中が乾いていない事が多いので、長めに乾燥させてください。
今回は猫の地となる黄色を吹きかけ乾燥させた後、2色目にオレンジのトラ柄を吹きかけています。
■手順4 仕上げ作業
イグアス:塗装まで終わりましたが、仕上げ作業などはあるのですか?
ナガエアートプロダクション:塗料を剥げにくくしたり、光沢の調整を行う為に、表面をコートします。光沢を抑えたい場合にはマット用のコート剤を、光沢がある仕上げを行いたい場合は光沢用のコート剤を使用します。
ラッカー系のクリアーを使用し、均一に吹きかけたり、塗ったりします。スケールモデル等ピカピカの表面を仕上げたい場合には、ご存じの方も多いかと思いますが、弊社一八番のウレタンコートをして磨ぎ出すことも事もあります。コート剤が乾いたら、最終仕上げでツヤ調整を致します。
コート剤が乾いたら、布やティッシュなどで表面を軽く拭く 塗料を細い筆に取り、目のラインを入れる
今回塗装を行ったトラ猫の完成品。トラ猫の他にも黒白猫の塗装も行っていただいた。こちらははマスキングを使って黒と白の塗り分けを行っている。
■塗装のコツあれこれ
イグアス:今回は動物のフィギュアでしたが、動物や人物のフィギュアと、機械系の模型だと塗り方などは変わりますか?
ナガエアートプロダクション:基本は一緒ですが、仕上がりの状態をイメージしてそれぞれに合った材料や塗装の仕方が多少変わります。例えば、はっきり塗り分ける時はマスキングテープを使用する、自然な模様や影を付けたい時にはエアブラシを使用するなど、色々試してみるのもいいと思います。
イグアス:今回、ProJet1500の造形物も持ってきました。ProJet1500の造形材料はレジンに近いアクリル樹脂で加工に優れているという事なのですが、この素材は磨きや塗装といった処理がしやすいのでしょうか。
ナガエアートプロダクション:大きめのサポート跡が残っているので、サポート跡の処理の必要はありますが、この材料はとても削りやすいのでサクっと削る事が出来ました。ProJet3500の造形材料に比べてかなり楽ですね。塗装手順については変わりません。
イグアス:お忙しい中ありがとうございました。どのように塗装するのか理解する事が出来ました。今度イグアスでも塗装にチャレンジしてみます。
ナガエアートプロダクション様では、市販のフィギュア/模型の組み立てや塗装だけでなく、3Dプリンターの造形物の塗装についても請け負っていらっしゃいます。業界屈指の技術で多くの企業様、個人様をサポートされています。プロに任せて綺麗に仕上げたい造形物、リアルに仕上げたい造形物、または「今回の記事を読んでみたけど自分で塗装は難しい」という方はぜひナガエアートプロダクション様にご依頼されてみてはいかがでしょうか。
ナガエアートプロダクション:弊社は塗装技術面で色々な方のご友援をいただいており、メディア様の仕事もたくさん出させていただいております。
その中にはプラモデル作成の仕方や、塗装の仕方などレクチャーしているDVD(「プラモを作ろう」シリーズなど 模型店にて販売)等もありますので、ぜひそちらも見ていただけると今回の塗装方法もより分かりやすくなると思います。
ナガエアートプロダクション様の作業風景。 様々な用具を使い分けながら完成度の高い塗装を行ってゆく
機械模型から美少女フィギュアまで様々な依頼を受けている